教頭らによる横領疑惑

 T教諭が勤務する府立東住吉総合高校は、総合学科の学校であるため、「ビジネスコース」が設置されており、コースに所属する生徒たちは資格取得に励んでいます。主に、公益社団法人全国経理教育協会主催の各種検定を受験しており、受験希望の生徒については、担当教員が生徒から検定料を預かり、協会に検定料を払い込んでいます。
 ところが、実際は、生徒から預かる検定費のうち、3割程度は「会場経費」としての使用が可能となっており、協会に検定料として払い込まれるのは「会場経費」分を控除した金額のみとなり、担当教員が生徒から検定料を預かったうちの7割程度となっています。
 私企業や私塾などが検定を実施した場合や、実際に別途会場を準備した場合の経費がある場合には、当然そこから会場費や人件費などの経費を都合するため、会場経費分の返還の必要はないと考えられます。しかし、東住吉総合高校は公立高校であり、校内施設を利用するための費用は掛かりませんし、教員の勤務時間中に検定を実施するので別途人件費が掛かることもありません。そうであれば、当然余った「会場経費」(担当職員が留保したいわゆる「キックバック」)は生徒に返還する必要があると考えられます。
 ところが、以下の表における検定費用(延べ173人、合計124,664円)は生徒に返還された記録が存在しません。この点を「不正経理」ではないのか、担当者(元教頭)らによる「横領」なのではないかと、T教諭と同僚は指摘してきました。

横領された可能性のある金額
検定名 開催回 生徒からの
領収額
検定協会に
支払った額
差額 人数 小計
文書処理 ワープロ3級 84 3,200 2,311 889 19 16,891
電卓計算 130 1,300 938 362 23 8,326
簿記 3級 187 1,400 1,010 390 8 3,120
簿記 3級 188 1,400 1,010 390 19 7,410
文書処理 ワープロ2級 87 4,200 3,033 1,167 1 1,167
文書処理 ワープロ3級 87 3,200 2,311 889 14 12,446
文書処理 表計算2級 87 4,200 3,033 1,167 1 1,167
文書処理 表計算3級 87 3,200 2,311 889 14 12,446
文書処理 ワープロ2級 89 4,200 3,033 1,167 1 1,167
文書処理 ワープロ3級 89 3,200 2,311 889 9 8,001
文書処理 表計算2級 89 4,200 3,033 1,167 1 1,167
文書処理 表計算3級 89 3,200 2,311 889 9 8,001
簿記 2級商業 193 1,700 1,227 473 2 946
簿記 2級工業 193 1,700 1,227 473 2 946
簿記 3級 193 1,400 1,010 390 11 4,290
文書処理 ワープロ2級 90 4,200 3,033 1,167 4 4,668
文書処理 ワープロ3級 90 3,200 2,311 889 5 4,445
文書処理 表計算2級 90 4,200 3,033 1,167 2 2,334
文書処理 表計算3級 90 3,200 2,311 889 3 2,667
文書処理 ワープロ2級 92 4,200 3,033 1,167 3 3,501
文書処理 ワープロ3級 92 3,200 2,311 889 12 10,668
文書処理 表計算3級 92 3,200 2,311 889 10 8,890
合計 173 124,664


同僚I教諭の指摘

 2018年4月に、I教諭が商業科教諭として東住吉総合高校に転入。
 主に商業科の検定試験の校内実施についての考え方の違いから、I教諭と他の担当者らの間に対立関係が生まれる。

I教諭の姿勢
 検定料の「試験場費」(受験者負担費用の30%の「キックバック」)は全額生徒に払い戻すべきである。
 生徒が自ら学外で受験することが望ましい。(教育的観点及び会計の明朗性確保の観点から)
 簿記検定は社会で資格が大きく評価されるため検定の校内実施に協力する。

その他の担当者(元教頭を含む)の姿勢
 検定料のキックバック分はプールし、教材等に支出すべきである。
 校内での検定実施件数は多いほど望ましい。

 I教諭が4月当初に「検定料清算を明確にすべき」と主張した際に、教頭は「そんなことをしたら大変なことになる」と叫んだ。
 I教諭は、学校全体で不正行為が行われている可能性を考慮し、時間をかけて他教科の動向を探った。

 これ以降、教頭によるパワハラ・モラハラが発生。
 I教諭が通勤時間に往復4時間以上かかることを知りながら「おまえどうせ暇やろ」との暴言。
 I教諭の抗議に対し、手でハエを払うかのような動作をする。
 赴任直後のI教諭には対応困難な「情報処理室のパソコンの不具合を早急になんとかするように」と発言。
 通勤時間中に電話に出なかったことについて「携帯電話を常に使える状態にしないのはわがまま」と発言。
 校内規定を無視し、「商業科では生徒の成績に欠点をつけてはいけない」と暴論。
「Iの授業の不満は校長に知らせている」と発言。
 他の教諭にもモラハラ・パワハラを行なっていた事実もある。

 2019年度以降、I教諭は、大阪府法務課訟務・コンプライアンス推進グループに対して、コンプライアンス案件(不正経理及び人権侵害事案)として公益通報を行った。しかし、未だに解決は為されていない。


大阪府職員措置請求

 T教諭は、上記のようなI教諭の指摘を知り、独自に大阪府に対して情報公開請求をするなどして、不正経理の実態を探っていましたが、教育委員会は情報公開請求に対して「不存在」決定通知を行ないました。また、T教諭は校長に対しても、不正経理の実態について追及しましたが、何ら回答はありませんでした。
 そこで、T教諭はI教諭と協力し、2022年12月に、監査委員に対して「大阪府職員措置請求」(いわゆる住民監査請求)を実施しました。


【 大阪府立東住吉総合高等学校職員らに関する措置請求の要旨 】

・監査対象職員
 教頭、担当者、校長。以上3名。

・監査対象事項
 日時 平成28年4月から平成31年3月まで
 事項 校内で実施された、公益社団法人全国経理教育協会主催の各種検定にかかる検定料の不正処理について

・監査対象の財務会計上の行為
 校内で実施された、公益社団法人全国経理教育協会主催の各種検定にかかる検定料のうち「試験場費」(担当職員が内部留保した「キックバック」該当金額)の不正処理について
 被害者数:述べ173人、不正総額:124,664円

・監査対象事由
 本件試験場費を検定料負担者(本校受検者及び本校保護者)への説明なく、担当者が着服したと推定できる。
 担当者は刑法上の業務上横領罪(刑法第253条)または詐欺罪(刑法第246条)を適用されると考えられる。
 校長は本校商業科I教諭の本件究明及び訴追のための行動に終始非協力的であり、監督責任が問われる。
 I教諭は大阪府総務部法務課に本件を公益通報として報告を行い、本件は受理番号第2-25号として令和3年1月19日に受理され調査中とされるが、令和4年11月13日現在、未だ報告がなく、この状況を放置すると一部事象について刑事訴訟法上の公訴時効(刑事訴訟法第250条)に該当する懸念がある。
 また、校長からI教諭への説明によれば、これら指摘により一部受検者または保護者に担当者が返金を行おうとしていた事実があり、事後処理においても事実の隠蔽工作が行われている可能性がある。ただし、この返金行為は自ら不正を認めたものと推認できる。この返金行為についてIは総務部法務課にその行為の差し止めを要望し、第三者による適正な処理と本不正行為実行者及び責任者の厳正な処分を希望している。

・監査対象事象による大阪府民の損害内容
 検定料の処理について監査対象職員より何ら報告も行われず、職員により「裏金」として着服されている疑いが濃厚であるにもかかわらず、その真実を知らされず、すでに大きな金銭的被害が発生している。また、今後も類似不正行為が他校を含めて行われる可能性がある。さらに、被害金額を大阪府が代理弁済することにより、大阪府に金銭的被害が生じる。

・措置の請求
 本件不正行為について、府民への情報公開及び被害者への第三者(教育庁)からの弁済。
 不正行為実行者及び責任者に対する処分。(刑事、民事及び行政上の責任を果たさせること)
 不正行為実行者及びその責任者が関与せず、第三者が事後処理を行うこと。
 弁済者(教育庁)が不正行為実行者へ求償権を行使する。(実行者に不正処理額を負担させる)
 教育庁に対し再発防止策の検討指示を行い、その結果についての府民への情報公開を行わせる。


監査請求の結果

 上記のとおり、T教諭はI教諭と協力して、「大阪府職員措置請求」(いわゆる住民監査請求)を実施しましたが、以下のとおり、「検定費は公金ではないので監査対象ではない」として、却下されることとなりました。しかし、公金ではない金銭を業務上着服した場合では、懲戒対象となっている事実があるので、監査対象ではないとしても今後も継続して追及していく必要があります。

【 住民監査請求について(通知) 】

 令和4年12月9日にあなたから提出のあった請求については、下記のとおり却下します。

第1 請求の要旨
 措置請求書及び事実証明書の内容から、請求の要旨をおおむね次のとおりと解した。

1 監査対象事項
 大阪府立東住吉総合高等学校(以下「学校」という。)の校内で実施された公益社団法人主催の各種検定(以下「本件検定」という。)に係る検定料(受験料)のうち試験場費(以下「試験場費」という。)について、担当職員(以下「担当者」という。)による不正処理(以下、後記3において「本件不正行為」という。)

2 監査対象事由
 試験場費を、検定料負担者(校内受検者及びその保護者)への説明なく、担当者が着服したと推定できる。校長には監督責任が問われる。また、一部の受験者及び保護者に担当者が返金を行おうとしていた事実があり、事後処理においても事実の隠蔽工作が行われている可能性がある。
 試験場費の処理について担当者より何ら報告も行われず、担当者により着服されている疑いが濃厚であるにもかかわらず、その真実を知らされず、すでに大きな金銭的被害が発生している。また、今後も類似不正行為が他校を含めて行われる可能性がある。さらに金銭的被害を大阪府が代位弁済することにより、大阪府に金銭的被害が生じる。

3 措置の請求
第2 地方自治法第242条第1項の要件に係る判断
 1  地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項は、普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担があると認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実があると認めるときは、これらを証する書面を添え、 監査委員に対して監査を求め、 必要な措置を講ずべきことを請求することができる旨規定している。
 2  請求人が請求の対象としている行為は、学校で実施された本件検定に係る試験場費の処理である。本件検定は、学校が主体的な学習指導や進路指導を行うことを前提に、学校が主催する業者テスト等として、学校の生徒を対象に実施したものである。
 行政実例(昭和23年10月12日自発第901号)によれば、公金とは「法令上当該地方公共団体又はその機関の管理に属する現金、又は有価証券をいう」とされており、本件検定に係る受験料は、受益者が負担するいわゆる私費であって、法令上府又は府の機関の管理に属する公金には当たらない。
 また、学校が主催して校内で実施しているので、府が公金を賦課・徴収する場合に当たらない。
 さらに、法第237条において、「この法律において『財産』とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう」とされており、現金は法上の財産には該当しない。
 以上を踏まえると、本件請求に係る行為は、法第242条第1項の財務会計上の行為又は怠る事実に該当しない。

第3 結論
 以上のとおり、本件請求は、法第242条第1項の要件を満たさない請求であるから却下する。

 参考全文:住民監査請求について(通知) 【画像】