「指導死」に関連する報道


 大阪府立東住吉総合高校において、2015年5月15日に生起した「指導死」事案についての当時の報道です。


朝日新聞 2016年05月18日 夕刊

高1を8時間指導、直後に自殺 遺族が大阪府提訴【大阪】
 大阪府立東住吉総合高校1年の男子生徒(当時16)が自殺したのは、教員による8時間にわたる行き過ぎた指導が原因だとして、遺族が府を相手取り、7788万円の国家賠償を求めて大阪地裁に訴えを起こした。18日に第1回口頭弁論があり、府側は請求を退けるよう求めた。
 訴状によると、男子生徒は昨年5月15日午前10時ごろ、授業中に立ち上がって私語をしていた別の生徒を注意し、もみ合いになった。教員らは男子生徒を別室に連れだし、先に手を出したことを認めたとして反省文を書かせ、この日のうちに停学5日の方針を決めた。男子生徒は午後6時ごろに帰宅を許されたが、約30分後に南海高野線の踏切に立ち入り、電車にはねられて亡くなった。
 遺族側は、教員らがトラブルの経緯を踏まえず約8時間にわたって反省を強いた▽ひどく落ち込んでいる様子の男子生徒を1人で帰宅させた――と指摘。学校側は自殺を防ぐ義務を怠った、と訴えている。
 府教育庁は「亡くなったことは重く受け止めているが、事実と異なる点があり、裁判で明らかにしていく」とのコメントを出した。

■「真相知りたい」
「学校で何が起きたのか、明らかにしたい」。北陸地方に住む60代の祖父は提訴した理由を語った。
 男子生徒は昨年5月、自分の誕生日に合わせて帰省し、帰り際に「夏休みにまた来るよ」と笑顔を見せた。しかしその9日後の夜、死を告げられた。5時間かけて警察署にたどり着き、同級生に暴力を振るい、指導を受けていたようだと聞いた。
 「まさか。暴力を?」。学校側に何度も説明を求め、経緯の一部がわかった。別室での指導で男子生徒は「ビンタをした」と話したが、教員は手を出した場面を見ていなかった。また、教員から「お母さんに言う」と告げられ、男子生徒が表情を曇らせていたこともわかった。指導の際に書かされた「振り返りシート」では、「性格は暗め、これと言った個性はなし」と自己分析していた。祖父は「追い詰められていた。一人で帰らせなければ、死ぬことはなかった」と話す。
 祖父は初孫の顔を見るため、幼いころから毎月のように大阪に通ってきた。言葉を覚えると、「僕はおじいちゃんの宝物」と言った。中学では剣道を続け、たくましくなったのがうれしかったという。裁判ではトラブルを目撃した同級生らにも話を聞きたいと思っている。「家族の時間は止まったまま。あの子の名誉を回復してやりたい」(阿部峻介)


産経新聞 ウェブサイト 2016/5/18 12:36 【 記事 】

「別室で8時間も反省文」自殺高1男子の遺族が大阪府を提訴
 大阪府立東住吉総合高校で昨年5月、同級生とトラブルになった1年の男子生徒=当時(16)=が下校途中に踏切で自殺したのは、学校側が指導として約8時間も反省文を書かせ、一方的に停学処分を決めたためだとして、男子生徒の祖父と母親が府に計約7700万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしたことが18日、分かった。第1回口頭弁論が同日、地裁(金地香枝裁判長)であり、府側は請求棄却を求めた。
 訴状によると、生徒は昨年5月15日午前の英語の授業中、席を立って雑談している同級生を注意した。しかし同級生は応じず、威圧的に向かってきたため思わず平手打ちしたところ、胸ぐらをつかまれ押し倒されるなどトラブルになった。
 教諭らは同日午前10時ごろから、生徒を3畳ほどの別室に連れて行き、反省文を書くよう指導。教諭が入れ替わりで監視し、午後6時ごろに「相手をうっとうしく感じた」との数行の文章を書くまで下校させなかった。その間に学校は停学5日の処分を決定。生徒は帰り道で南海電鉄高野線の踏切に入り、電車にはねられ死亡した。
 原告側は「学級崩壊のような状態を見かねて注意したのに、反論や弁解の余地を与えられなかった」と主張。「指導とは呼べない行為で、人格を否定されたことが自殺の原因だ」と訴えている。
 訴訟で府側は、別室で約8時間にわたり指導したことは認めたが、「反省文をなかなか書かなかったためで、監禁という状況ではない」などと反論した。




朝日新聞 2019年03月28日 朝刊

高1指導後自殺、遺族の請求棄却 大阪地裁「教育の範囲」【大阪】
 大阪府立東住吉総合高校1年だった男子生徒(当時16)が2015年に自殺したのは、教員の行きすぎた指導が原因だとして、遺族が府に7788万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、大阪地裁であった。金地香枝裁判長は遺族側の請求を棄却した。
 判決によると、生徒は15年5月、授業中に大きな声を出していた別の生徒を注意し、暴力を振るった。その後約8時間、別室で担任教諭らの聞き取りを受けて反省文を書いた。午後6時ごろに下校し、鉄道の踏切に立ち入って死亡した。
 判決は、生徒は暴力の理由を言おうとせず、教諭の聞き取りに時間がかかったと指摘。教諭が声を荒らげたこともなく、生徒も指導を受け入れる姿勢を示していたとして「8時間留め置いたことは適切とは言いがたいが、教育的指導の範囲を逸脱したとはいえない」と判断した