マルチ商法に関連する授業

 T教諭が実施した「マルチ商法に関連する授業」について説明します。教育委員会は、この「マルチ商法に関連する授業」について、「生徒が恐怖を感じている」などとして、内容がセンシティブであり不適切としました。
 なお、裁判の中では、「授業が不適切なのではなく、生徒が恐怖を感じていることを考えられない点が不適切」などと主張を変遷させており、何が不適切なのかは未だに今ひとつはっきりしていません。

 T教諭は公民科の授業の中で、消費者教育を重視してきました。
 学習指導要領においては、「平成30年6月の民法の改正により令和4年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳から一人で有効な契約をすることができるようになる一方、保護者の同意を得ずに締結した契約を取り消すことができる年齢が18歳未満までとなることから、自主的かつ合理的に社会の一員として行動する自立した消費者の育成のため、また、若年者の消費者被害の防止・救済のためにも、こうした消費者に関する内容について指導することが重要である。」とされていることなどを踏まえています。さらに、前任校の卒業生においては、実際に被害者だけではなく加害者になっている事案も散見され、いわゆる消費者被害に関する被害総額が1000万円を超える状況となっています。
 T教諭は、こうした実態を踏まえ、年度当初の段階で、「実践的な消費者教育を行う」としていました。(【 令和4年度自己申告票(一部)】)  ところが、教育委員会(教員評価支援チーム)の説明では、T教諭が扱った事案について、「被害者が自死をしている点」について、生徒が恐怖を感じているなどとして、内容がセンシティブであり不適切としているものです。(そもそも何がどのように不適切なのか明言していないので、明確な反論もしようがありませんが)


 T教諭が扱った教材

 T教諭は、2021年11月9日の朝日新聞朝刊を元に以下の文章を作成しました。
 なお、事件そのものの報道は朝日新聞を始め、テレビ朝日、毎日新聞、産経新聞、NHKなどでも為されました。
 2020年8月頃、大阪府に住む22歳の女性が「投資」に関わるようになったきっかけは、1本のインスタの投稿だった。大学時代の友人が「投資に興味ある人」を募っていたので「興味ある」と答えると、DMのやりとりが始まり、近況などを伝え合ううちに、友人から「一度でいいから話を聞いてほしい」と切り出された。
 友人から「高校の同級生」と紹介された男は、LINEのグループトークなどで、暗号資産(仮想通貨)を扱う海外の会社への投資を持ちかけてきた。安く買った仮想通貨を、高く売って利益を出す。紹介料や配当を得られ、損は絶対しない、デメリットはないと言われた。
 女性は、彼氏に「もうけ話があるらしい」と話してみた。「うさんくさいから、やめときや」と忠告されたが、「友達やから信用できる」「大丈夫や」と思った。
 女性は消費者金融3社から計150万円を借り入れ、男に言われた通り金を渡した。だが、ネット上の投稿などをみると、「詐欺」という言葉が目についた。彼氏に話すと、母親に相談するよう勧められたが、「心配かけてまうから言われへん」と思い、悩みを抱え込んだ。
 やがて、女性は「うつ病」と診断され、彼氏と一緒に男らに会って返金を求めたが、応じてもらえなかった。お金を挽回するには、誰か別の人を犠牲にして勧誘し、紹介料を稼いで補うほかない。そんな焦りが、自身を追い詰めていった。とうとう女性は、10月に大阪市内のホテルで自ら命を絶った。ホテルに残されたリュックの中には、母親に宛てた手紙があった。「私の服とか売ってね。多少のお金にしかならんかもやけど」。
 母は警察に相談しようと思っても、契約書類はなく、実態がつかめない。弁護士に相談し、金を預かった男を大阪府警に告訴することも検討している。

 T教諭は、2022年度1学期の中間考査において、この文章を「書写」させるという試験問題を作成しました。
 このことについて、教育委員会(教員評価支援チーム)のは、「被害者が自死をしている点」について、生徒が恐怖を感じているなどとして、内容がセンシティブであり不適切としました。
 しかし、消費者被害についての  なお、試験問題として「書写」が適切であるのかどうかと言う観点については、そもそも教育委員会(教員評価支援チーム)からは言及がありませんでした。詳細は下で説明しています。

【 試験問題を画像で表示 】




 この教材についての生徒からの評価

 校長や教育委員会(教員評価支援チーム)は、この教材内容について「生徒が恐怖を感じている」などとして、内容がセンシティブであり不適切としました。しかし、この教材を踏まえ、上記のテレビ朝日報道(【 テレビ朝日報道 】)を視聴した上での生徒からの評価は以下のようなものでした。

【 公民総合での実施後のアンケート結果 】

 結果を見ると、この教材について「マルチ商法の危険性について理解が深まった」「この授業で何か学習できたことがある」「自分は投資詐欺に引っかからないように気をつけたい」について肯定的な回答が集中しており、「このニュースの内容は高校生には過激だ」「このニュースを授業で扱うのは不適切だ」「授業では、人が死ぬことについて扱ってはいけない」「この授業を受けて、先生に対して恐怖や不安を感じた」については、否定的な回答が集中しています。
 さらに、自由記述では、「この事件のことを学んでマルチ商法には騙されないように気をつけようと思った」「詐欺にひっかからないように気をつけて過ごしていきたい」「お金を欲しいと思っても、こういうことには手を出さないようにしたり、マルチをする側にも付きたくないと思った」など、学習指導要領で定める「若年者の消費者被害の防止・救済のためにも、こうした消費者に関する内容について指導することが重要である」との記載にも合致しています。さらには、別途アンケートでは、「人が亡くなってしまった内容の授業が不適切と言われているけれど、もう高校生なので怖いって気持ちだけで終わらせず、自分達が同じ状況にならないための学習につながっているので、そういう内容の授業を扱うのは大切だと思う。」と述べている生徒もいます。この意見は高校生の意見として「自然」で「全う」な意見だと思います。
 そもそも、授業で死を扱うことが不適切なのであれば、例えば第2次世界大戦では5000万人以上が亡くなっているので歴史の授業はできないこととなるし、最近ではロシアとウクライナが戦闘状態にあり既に数十万人が亡くなっているなどの事象が起きていますが、これも扱うことが不適切であることになってしまいます。
 さらには、実際に、東住吉総合高校の国語の授業では「安楽死の是非」について調べてディベートする授業が行われている事実があり、教員評価支援チームの指摘は明らかに他の授業との均衡を欠いているなど、当然に正当性をも欠いています。
 授業においては発達段階に応じて適切な課題を設定する必要がありますが、上記結果のとおり、授業についての生徒からの評価も高く、その教育効果についても非常に高いことが分かります。
 なお、教育委員会は裁判の中で、「公民総合での実施後のアンケート結果」は、「T教諭本人が実施したものであって生徒の本音が反映されていない」などと主張しています。しかし、毎年、学校によって実施されている授業アンケートにおいても、公民総合の評価は9項目中7項目において最高評価の4.0がついている状況となっています。授業アンケートは「1(まったく当てはまらない)」〜「4(よく当てはまる)」を評価基準として集計されるものであり、受講している全ての生徒が、7項目に亘って、最高評価をつけたという事実が明らかとなります。
 T教諭の実施した「公民総合」の授業内容が優れており、生徒からも高く評価されているのかという事実が歴然と現れていることがわかりますし、教育委員会の主張(もはや難癖)が如何に当を得ておらず、論ずる価値にも値しないものであるのかもよく分かります。

【 令和4年度授業アンケート(学校実施)結果 】

 なお、2年生の「政治・経済」については、他の科目(講座)と比べて低い結果となっていますが、この点については別途説明しています。



 「書写」の試験問題となった経緯

 すでに別ページ【 前任校におけるハラスメント 】)で書いたとおり、T教諭は前任校において書写の自習課題を強要されたこと、他の教員も書写課題を頻繁に出題していることから、T教諭も授業の中に「書写」を取り入れることとし、年度当初に提出する「自己申告票」においてもそのような記載をしていました。【 令和4年度自己申告票(一部) 】
 さらに(この点も自己申告票に記載されていますが)、「政治・経済」においては、小テストとレポートなどによる成績評価を実施しており、1学期中間考査を実施するまでの期間に、小テスト3回および小レポートを5通以上提出させていたため、そもそも考査を実施しなくても成績評価が可能であり、むしろ「定期考査は不要であるので実施しなくても良い」旨を校長に伝えていました。しかしながら、校長も教務部長も何ら対策をせず、「すでに時間割が組まれたから」などとして、考査の実施が強行された経緯があります。
 しかも、「政治・経済」の授業は、2年生(文理コース)と3年生(英数コース、ビジネス情報コース)の3コースにおいて展開されていましたが、2年生の「政治・経済」の考査と、3年生の「政治・経済」の考査が別の時間帯に実施されていた事実があり、同じ授業の考査を別の時間帯に実施した場合、前の時間帯で受けたテストの内容が後の時間帯に受ける生徒達に漏洩する可能性が高いと校長に伝えた上、時間割を変更するようにも校長に伝えていました。しかし、このことについても、校長も教務部長も何ら対策をせず、上記と同様に「すでに時間割が組まれたから」などとして、別時間帯での考査の実施が無理やり強行されたという経緯があります。
 つまり、「書写を取り入れることは自己申告票に記載しており、校長もそれを承認していたこと」「定期考査を実施しなくても成績評価が可能であると言っていたにもかかわらず、考査実施が強行されたこと」「政治・経済のテストが2つの日程に分かれていたため、情報が漏洩する可能性があり、校長に対して『情報が漏洩しても問題ない書写の試験を実施する』旨を事前に伝えていたこと」がわかります。

 仮に、「書写」の試験形態そのものに問題があるのであれば、そもそも自己申告票の段階で校長は事前にそれを認めないべきですし、また、内容に問題があると言うのであれば、これも自己申告票の段階で「実践的な消費者教育を行う」とした段階でそれを認めるべきではありません。結局、仮にそうした考査を問題にするのであれば、それまでの校長の職務怠慢の事実が明らかになるのです。

 また、前年の令和3年度の自己申告票にも、同様に設定目標として「前任校の首席が絶賛した「教科書を書写する課題」を、本年度も積極的に授業や考査に取り入れ、成績不振者を可能な限り少なくし、生徒の満足度を高める。」ことを設定し、進捗状況として「「教科書を書写する課題」を適宜実施し、生徒の満足度上昇に努めている。しかしながら、その評価基準については未だによく分からないため、今後、情報公開請求などによって研究に努める。」、達成状況として「今後、3観点別評価が導入されるなかで、どのように「教科書を書写する課題」を成績評価していくのか検討する必要がある。」としており、その結果、校長は年度末の「評価育成シート」においてA評価を付けていた事実があります。  この点から言っても、書写については校長が認めていた事実は明らかですし、むしろ高く評価していた事実がわかります。




 「書写」試験における成績評価の正当性

 少なくともT教諭の前任校や東住吉総合高校で、書写の自習課題が一般的であることについては上で述べたとおりです。
 次は、「書写」試験を実施して、それを成績に組み入れることの是非について、T教諭の考え方を示します。

 新学習指導要領では、「成績評価」を「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習 に取り組む態度」の3つの観点によってすることとなっています。旧学習指導要領においても「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の3つの観点によってすることとなっていました。
 ところが、実際は、この4観点それぞれの内訳について、生徒への説明責任が無いことを悪用して、観点別評価を行なわずに「平常点3割+考査7割」とする運用がなされていた事実があります。これは、T教諭が最初に勤務した定時制高校でも、次に勤務した前任校の普通科高校でも、東住吉総合高校でも同様です。しかも、成績全体の算定根拠は、「考査の得点とノート提出だけ」という状況も横行していました。この「ノート提出」というのは、授業中に黒板に書かれた内容を単に書写したものであり、これを「平常点」として年間成績の3割分として評価対象に入れているということです。
 さらに、この「ノート」は、必ずしも授業中に提出する必要が無く、提出時期の直前になって友人のノートをまとめて写している姿(=「書写」)が校内で多く見られる状況であり、少なくともT教諭の前任校や東住吉総合高校においては、まさに「書写」による成績評価が一般的であった事実が明確にあったといえます。
 平成29年に国立青少年教育振興機構が発表した、日米中韓の4か国における高校生の学習意識などに関する調査結果(【 高校生の勉強と生活に関する意識調査報告書 】(PDF))では、日本の高校生は他国に比べて「授業中にノートを取る」生徒が非常に高い一方、「宿題をする」「先生の話を聞く」といった項目は低い状況となっています。さらに、T教諭は、高校教員をしながら放送大学大学院修士課程を修了しており、その研究の中で、「授業中にノートをしっかり取る」という高校生は、偏差値があがるごとに減少している傾向であることを突き止めました。また、「授業ノート」を学校に提出する義務も、偏差値があがるごとに減少している傾向であることがわかりました。
 つまり、学力偏差値が低い高校の生徒ほど、「授業中にノートをしっかり取る」という「逆説的な行動」を取っており、その原因は「ノート提出をすることで成績が上がる」という成績評価のシステムに原因がある(一方で、学力偏差値が高い高校では、ノート提出を成績評価に入れていないため、そもそもノートをちゃんと取るという行動のインセンティブが働かない)と考えられることがわかりました。このことについて、そうした成績評価が本校においても行なわれており、生徒の学習意識を妨げている旨校長に進言していました

 一方で、T教諭の成績評価については、令和4年度の「政治・経済」においては小テストとレポートなどによる比準が大きく、年間成績評価における令和4年度前期第1回中間考査「政治・経済」のテストの比率はたったの5%です。年間の成績評価において「ノート提出」に3割もの点数を配分している教員が多くいる一方で、T教諭は書写による定期考査は年間1回しか実施していないし、年間を通してノート提出による評価は実施していないので、結局「書写」による評価は年間で5%にしかならないのであって、仮に「書写」による成績評価が問題であるのであれば、T教諭よりもむしろ年間の成績評価において「書写」である「ノート提出」に3割もの点数を配分している教員こそが「指導が不適切」であると認定されるべきといえるでしょう。T教諭は、校長に対して再三、「ノート提出」に3割もの点数を配分するような成績評価をやめさせるように提言していました。
 また、T教諭は生徒にノート提出(=書写)をさせない代わりに、書写形式で考査を実施することについても伝えていました。「テストごとにノートを書写させて評価するのか、考査そのものを書写形式にするのかという違いであって、本質的には何の違いもない」旨も校長には伝えていました。

 東住吉総合高校で2020年度にH教諭が担当した「日本史Bβ」では、考査の平均点が 27.9 点であるにもかかわらず、年間の総合成績が 70.3 点となっており、考査の得点比率が成績評価において著しく低廉に抑えられていることがわかりますし、N教諭の「現社演習」の成績評価においては、「平常点」が4割もの比率を占めている事実もあります。
 結局、他の教員は、考査点を年間成績に大きく反映させてもいないし、ノート提出をさせて「平常点」として4割の得点を配分しても良いのであれば、T教諭が年間成績における5%の比率で書写の考査問題を実施したとしても、それを根拠に「成績評価」が妥当ではないとはいえないのです。
 さらに、東住吉総合高校の体育科では、プールの実技指導が受けられない場合に、代替措置として参考書を20ページ以上に亘って書写させる指導が為されている実態もあり、T教諭はそうした教材を情報公開請求しましたが、なぜか非公開となった経緯もあります。



 まとめ

 これらを総括すると、
 などがわかります。