教員の資質向上をめざして―「指導が不適切である」教員への支援及び指導の手引き―

 大阪府教育委員会が平成31年4月に作成した「手引き」について解説します。この手引きは、別ページ(【 関係法令などの位置づけ 】)で解説したとおり、教育公務員特例法の委任によって教育委員会規則が作られ、教育委員会規則の委任によって手引きが作られているということや、文部科学省ガイドラインは、教育委員会規則を制定するための参考となるよう、情報提供を行なったものであって、各教育委員会において規則を改正しない限りは、ガイドラインが自動的に規則に反映されるものではないことなどを確認しました。
 しかしながら、大阪府教育委員会は、裁判全体を通じて、手引きに従って研修命令が発令されたわけではなく、文部科学省ガイドラインに従っている旨の主張をしています。この点は明らかに違法であり、大阪府教育委員会の手続違背を示す重要な点になっていくことが予想されます。


 手引き

 手引き全体はこちらです。→ 【 教員の資質向上をめざして 】(PDF)

 手引きの4ページにある「『指導が不適切である』教員への支援・対応フロー図」は、以下の画像のとおりです。


【 画像だけを表示 】

 手引き1ページには、
「校長等は、指導が不適切であると思われる教員について、授業観察等を通じ課題を把握し、校内での指導・研修により改善を図る。校長等から要請があれば、府教委は「教員評価支援チーム」を派遣し、課題解決に向け支援を行う。
 校内の指導・研修では改善が見られない者については、校長等からの申請に基づき、後述する「資質向上審議会」に諮り、「指導が不適切である」教員と認定した者に対して、府教育センターにおいて指導改善研修を行う。
 指導改善研修では、当該教員の能力、適正に応じた研修プログラムを実施し、改善を図る。
 対応システムの概要を4ページのフロー図に示している。
 とあり、システムの概要が示されていますが、T教諭への指導改善研修命令発令にあたっては、このフロー図に沿っておらず(特に、赤枠の部分がほとんど履行されていない)、明らかに違法・不当なものとなっています。
 なお、「教員評価支援チーム」の派遣にあたって校長から要請はなく、その事実を教育委員会は裁判の中でも認めています。


 手続違背である点

 以下、手引きに基づき、大阪府教育委員会による数々の手続違背(他の不当違法)を指摘します。

◆ P1:「教員評価支援チーム」は、授業観察等を行うことにより、当該教員の指導における課題を明確にし、校内研修など当該教員の指導改善に向けた取り組みへの支援を行う。

→ まず、そもそも校内研修は行われていません。大阪府教育委員会は準備書面のなかで以下のように反論しています。
 しかしながら、本件では、府教委による教員評価支援チームの派遣までに原告に対する校内での研修等は行えていない。
 この点については、申請書(乙6)で校長が記載しているように、原告は、これまで、校長や一部の教職員に対し執拗に、また詰めるように質問や要求をすることで教職員に恐怖を感じさせることがある等、職場環境を害し勤務校である本件学校の組織の一員として協働できるような状況ではなかった。その証拠に、原告は、本件学校に在籍しながら、被告に対し、令和2年4月から同年(令和4年の間違い)10月までに約200件の行政文書公開請求を行ってきている。また、原告からの文書等による様々な確認事項や要望等における本件学校の校長の対応は、令和2年4月から同年(これも令和4年の間違い)10月までに少なくとも150件以上あった。それにより、本件学校の校長の業務への負担が大きくなったことで、体調にも異変をきたすなど本件学校の運営に支障を生じさせるような状況であったため、本件学校として原告の授業に関する課題改善に向けた研修等を行うことは極めて困難であった。
 このことについて、そもそも「情報公開請求は個人が市民的権利の行使のために実施したものであって、研修命令には関係がなく、そもそも他事考慮にあたるので違法・不当」「手引きに沿っていないことを認めたのであれば手続違背」と指摘したところ、教育委員会は「教員評価支援チームが実質的に研修をした」などと主張しています。「情報公開請求は校長の時間を浪費している多くの事由のうちの一つとして取り上げたにすぎない。」などと主張しています。

 情報公開請求が仮に校長の時間を浪費していたとして、果たしてそれが研修命令の理由になりえるのでしょうか。不可解です。

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◆ P1:「校長・准校長(以下「校長等」という。)は、指導が不適切であると思われる教員について、授業観察等を通じ課題を把握し、校内での指導・研修により改善を図る。」「校長等(市町村教委)から要請があれば、府教委は「教員評価支援チーム」を派遣し、課題解決に向け支援を行う。」「校内の指導・研修では改善が見られない者については、校長等(市町村教委)からの申請に基づき、後述する「教員の資質向上審議会(以下「資質向上審議会という」。)に諮り」

→ 校長は要請をしておらず、校内での指導・研修もありません。

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◆ P7:「指導・観察記録を作成し、「教員評価支援チーム」に相談・報告する。」「校長等は、当該教員のよき相談相手となり、本人の意欲を喚起するような研修計画を策定する必要がある。」

→ そもそも校内研修が行われていないので、「指導・観察記録」自体が存在しませんし、「研修計画」も当然存在しません。

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◆ P8:「経過観察や指導に当たっては、本人に対して課題を的確に伝え、その自覚を促すことが重要」「校内における指導を行い、その個別の内容を「支援・指導等のメモ(様式1-2)」により記録しておく。」

→ 課題を的確に伝えられていませんし、そもそも校内研修が行われていないので、「支援・指導等のメモ(様式1-2)」も作成されていません。

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◆ P8:「校内における指導によって、当該教員の指導力の改善に努めなければならない。その際、校長等(市町村立学校においては市町村教育委員会)は、「教員評価支援チーム」の授業観察等による支援を要請することができる。」

→ 「教員評価支援チーム」の授業観察等による支援を要請しておらず、「教員評価支援チーム」と校長が「調整」したとしています。当然、その前段となる指導や観察、支援や研修も踏まえていません。

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◆ P9:「校長等に対し校内における研修などによって、当該教員の指導力の改善を図るための校内体制の整備に努めるよう、適切な指導・助言を行う。」

→ 校内における研修が行われていない。指導力の改善を図るための校内体制も整備されていない。

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◆ P12:「資質向上審議会に諮る対象は、校内の対応等では改善が見られない者とする。」

→ 校内での対応等がなされていない。

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◆ P12:「資質向上審議会に諮る場合は、本人に事前に事実確認を行った上で、資質向上審議会の概要について十分に説明するとともに、本人から頭又は書面による意見を聴取する機会を設けるものとする。」

→ 本人に事前に事実確認が行われていない。また、事実確認のために必要な書式「校内研修における指導等の記録(様式(1-1)」がそもそも作成されてすらいない。資質向上審議会の概要について十分に説明されていない。

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◆ P13:「当該教員に対して、今まで指導を行ってきた「校内研修における指導等の記録(様式(1-1)」の文書を教頭立会いのもとに示し本人に事実確認をする。」

→ 同じく、本人に事前に事実確認が行われていないし、そもそも書式が作成されてすらいない。
 なお、教育委員会は、「書式の作成は必須ではない」などと主張しています。不可解です。


 以上のことから、そもそも教育委員会は最初から手続きを手引きどおり(教育委員会規則どおり)に進める意思すらなかったといえると思われます。